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現状の問題は、スコトーマに隠れて表に出て来ないことがあります。

更新日:2023年6月5日

問題解決は現状とあるべき姿のギャップを問題と捉えて、そのギャップをなくしていく活動です。


現状の世界は、スコトーマ(心理的盲点)に隠れていることが普通です。


自分が慣れ親しんだ現状。心地よく、いつまでもこの中にいたいと考える快適な領域があります。これを、コンフォートゾーンと言います。


現状を見える化しましょうと言われて、初めてトライする人は、大抵現状に少しカイゼンを加えてしまうことがよくあります。


客観的に見ると、時間をかけてやり直しをしているように見えることも、1回で上手く仕上げたように紙に書いてしまって、「現状を見える化しました」と言ってしまうことがよくあります。


自分はうまくやっていると言うイメージがあって、やり直しのようなムダがあっても、それをなかなか認めることができません。


現状のうまく行っていると思い込んでしまい、問題が表に出てこないことがよくあります。




もう十数年前のことになります。


設計のカイゼンをすることになりました。


まず最初に、現状の見える化から始めましょうと言うことになりました。


私は設計担当者に、「後で、みんなで問題を検討できるようにありのままの姿を紙に書いてみたいので、協力してください」と説明して、インタビューを始めました。


4週間分の仕事を詳細にインタビューして、私が整理していきました。

「5月10日には、どんな仕事をしましまたか?」

 ー「初期の検討です。」

「そのデータを検討して、次は何をしたのですか?」

 ー「干渉の有無をチェックしていました。」


こんなふうにインタビューを進めていきました。



私は、インタビューしながら、『ここは、やり直しだな。』『ここもやり直しだ。』

と頭の中で気がついていましたが、言葉には出さずに、4週間分の仕事を紙に書き出していきました。


インタビューをしても、すんなり時系列にやったことが返ってくるわけではありません。


設計担当者が、強く意識していなかったプロセスは、出て来ないことがよくあります。


客観的に聞いていると、AからCのプロセスに飛んでしまうことがわかります。


私がどう考えても、何かBと言うプロセスがないとCにはいけないように思って聞き直してみますと、「あっ、そうだ忘れていました。BをやってからCをやりました。」と言うことになることが度々です。


本人が、あまり強く意識せずに行っていたプロセスは、意識に上がりにくく、インタビューの回答から漏れてしまうことがよくあります。


いろいろ聞き直したりしながらインタビューは一旦終了しました。


そして、他のメンバーにも加わってもらって、4週間分の仕事の流れを書き込んだ紙を前に、みんなで問題の洗い出しに移ります。


まず、インタビューを受けてくれた設計担当者をはじめ、他の設計メンバーから気付いたことを指摘してもらいます。


一通り意見が出てきましたが、私が期待していた肝心の指摘は、まだ出てきません。


「4週間の仕事を見てみると、最初の2週間で図面を描き終えているようですが?」


「3週間目は別の仕事に移っていますね?」


「そして、4週間目でまた図面を描いていますが、これは何があったんですか?」

と私は質問してみました。


すると、設計メンバーのうちの一人が答えてくれました。


「3週間目に図面を描いていないのは、生産技術に図面を渡して、検討してもらっているんですよ。生産技術の目をとしてもらっ、意見をもらってておいた方が、後々良いんです。」


私は、生産技術の人にも参加してもらっていましたので、生産技術に意見を求めました。


「それは違うだろ!事前に渡しておいた要件集に沿った図面になっているかどうかを、私がチェックしているんです。」と生産技術から、新たな事実が指摘されました。


私は、この指摘を待っていたのです。


インタビューをしている間に、2週間で図面を描き終わっているのに、残りの2週間の仕事にやるべき価値のある仕事があるかどうかが、ポイントだと私は見ていました。


ここで分かったことは、設計の作図は基本的に2週間で終わっていたのです。


そして、次の1週間で、生産技術がチェックして、要件違反を指摘していました。


最後の1週間は、生産技術から受けた指摘事項に対して、設計が手直しをしていたのです。

これは「やり直し」です。


その後も、設計のメンバーは「やり直しじゃない。文章を推敲するのと同じだ」と言い張りました。


しかし、ついに設計担当者が小さな声で、

「2週間では、ちょっとやりきれなかったのですよ。納期が来てしまったので、後で直せば良いと思って、要件違反を承知で、生産技術に提出しました。」と言ってくれました。


カイゼン検討の場が一時、犯人探しの場になりかけましたが、この一言で本当の実態が見えてきました。


誰も、隠そうと思っていたわけではなく、自分の仕事を「やり直し」と言う風に認めることができなかったということが、この問題の真相でした。


その後の議論で、4週間目の仕事が全てやり直しではなく、さらにコスト低減アイデアを織り込むこともやっていたことがわかりました。


全てがムダと言うわけではなかったのです。


でも、4週間はかけずに済みそうです。


設計担当者は、自分の納得の行く設計をやり切りたいと言う思いでいっぱいです。


その気持ちがあまりにも強く、自分のやっている仕事の中に、やり直しがあったことは意識に登っていなかったのです。


現状の姿を見える化すると言うことは、案外難しいものなのです。


本人が自ら見える化をすると、今回ご紹介した事例のように、スコトーマに隠れて見えなくなっている部分が、見える化されずに隠れてしまうことがよくあります。


客観的にみることができる立場の人や、カウンターパートナー(この場合は、生産技術)を交えて見える化を進めることを、お勧めします。


本人のスコトーマに隠れてしまった部分が問題として浮かび上がって来ない限りは、改善の対象から外れてしまって、真の問題が解決まで到達できません。


担当者の仕事は、本人が一番よく知っていることに違いはありませんが、本人の悪気があるかないかにかかわらず、本人が意識できていないスコトーマに隠されてしまうことがあることは、十分注意をしてください。





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