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標準品は設計者ゼロ(DXで忘れてはいけないこと)

更新日:2022年11月17日

今回は、ある製品設計の、標準設計チームと特注設計チームのカイゼン事例お話しです。


DXという言葉が流行していますが、今の仕事のやり方をカイゼンした上でIT化をすることが原則です。



製品の標準タイプとして設定した型式をお客様が選んでくれた場合、すでに設計図は出来上がっていますが、お客様から特別な仕様の注文があった場合、新たにお客様の要望を仕様を満足する設計を行います。


特注仕様ではありますが、基本の製品に対するカスタマイズをするのが彼らの使命です。


この二種類の仕事を二つのチームが分担しています。

今回は、標準設計チームにスポットを当てます。


標準型式と言っても、同じお客様が同じ仕様の製品を指定してくれた場合、以前設計した製番のものを標準としています。


今回の対象となる製品は、この製品の特徴からも、車のように製品開発時点で、数種類の型式を全て揃えてはいません。



お客様からリピートの仕様の製品を受注した時点で、その製品を基準として、仕様の差を見極めながら、新たな設計を追加するという仕事になります。その基準が、標準仕様となります。


お客様からのご要望があったときに、これまでの履歴を調査して、確認図を作成し、お客様に提示して、お客様からの詳細なご要望を確認図に記入していただくというのがこれまでのやり方です。


ここまでが設計の準備段階の仕事になります。


これまでの実務の中では、彼らは標準仕様という概念をあまり持っていなかったというのが、正直なところです。


実際には、リピートかどうかの判定を担当者とチームリーダーが行っており、システムへの登録などの庶務的な仕事も含めて、合計で3時間ほどかかっています。


その後、お客さまに提出する確認図を作成するために、10時間弱をかけています。


この話を聞いた人なら、「標準品なのに、合計で13時間もかかっているのは何故だろう?」と直感的に疑問を感じます。


客観的にみるとこのような疑問がすぐに湧いてくるのですが、長年この仕事をやっている人たちには当たり前の仕事となっています。

長年同じようなやり方を繰り返していると、そのやり方が身についてしまい、コンフォートゾーンが出来上がってしまいます。


このやり方は、熟練したルーティーン作業になっているため、パフォーマンスは上がるのですが、その反面このやり方と違った方法でやろうとすると、気持ちが悪いとか、何かしっくりしないという感覚が起こってきます。


この熟練したルーティーン作業が、彼らのコンフォートゾーンでした。


コンフォートゾーンの中にいると、ネガティブな面では、スコトーマに隠されて、外側が見えなくなってしまうのです。

スコトーマとは、心理的盲点のことを指します。


元々トヨタ式カイゼンでは、これを”思い込み”と言って、カイゼンの初期にこれに気づき、これを打ち破ることが、カイゼンプロセスの定石になっています。


トヨタ生産方式では、「現状打破」という言葉がよく使われます。


今回の事例でも例外ではなく、この3時間の準備作業は、客観的に見れば「ムダじゃないの?」となるわけですが、当事者にはスコトーマの作用で、気づくことができなくなっているのです。


さらに私たちの脳は、自分にとって関係がないと思っていることは、脳幹にあるRAS(網様体賦活系)のフィルターが遮断し、情報を情報として受け取りません。


つまり、RASの働きによって、人はは自分にとって関係あると思っている情報しか受け取ることができなくなっているのです。


カイゼン活動では、はじめに現状の見える化を行います。表準(おもてひょうじゅん)と言います。

できるだけ詳細に、実際に起きていることを客観的に記録するプロセスです。


今回の活動では、表準を作って、関係者が自らやっていることを客観的に眺めることで、スコトーマが外れました。


ムダが見えるようになってきました。


この準備作業の目的は、標準か否かを見分けることです。


そのために「必要なことは何か」と考えていけば、このムダをなくすことができます。


標準の判定基準が明確になれば、営業マンにも判定してもらえるかもしれません。


商談中に、標準製品と分かれば、必要な情報だけを営業からもらうことで、IT化ができれば、設計者は介在せずに生産につなげることができるようになるでしょう。


ただ気をつけなければならないことがります。


これは、別の設計チームでの事例です。


そのチーでは、日常の業務のムダを省きたいと考え、IT化を考えました。


市販の効率化システムを導入すれば、自分達の仕事が楽になると考えたのです。


しかし、現状をよく見てみると、やはり業務のやり直しがいくつか見つかったのです。

「やはり」でした。


ITシステムを導入すれば、普通初期の入力情報に間違いがなければ、正しい答えが得られます。


お客様ー営業マンー設計者、この3者間のコミュニケーションの行き違いの問題はないでしょうか?


営業から伝達された情報では足りなくて、追加でお客様に問い合わせをしている。

そもそもお客様からの情報が間違って伝えられてしまって、後で図面を書き直した などのミスはよくあります。


このようなミスを放ったままで、システムを導入してもそれらのミスが原因で、システムからのアウトプットが正しく得られない。あるいは、システムからエラーが返されてしまう。


こんなことはよくあります。


今回の事例では、これまで、「確認図をたたき台としてお客様の要望を確認していた習慣」をいかに打破するかというところにポイントがあるでしょう。


これも、現状のやり直しの記録を集めて、やり直しの原因を掴み、それを事前に取り去っておくことが重要です。


安易にIT化に走ると、今までと同じやり直しやミスにより、足を引っ張られることになりますので、十分注意してください。


最後に、このカイゼンのゴールは標準品を対象として、設計者ゼロでやるという内容ですが、

カイゼンはここで終わりではありません。


例えば、標準品が月に50件あるとしますと、13時間✖️50件=650時間

650時間が浮く計算になります。


この650時間で、もっと付加価値のある仕事を行うことが重要です。

単なるムダ取りに終わってしまってはいけません。

  • 特注設計のやり方をカイゼンする

  • 新規製品の開発にリソースを重点配分する

  • 既存製品の原価低減など

付加価値を上げることはたくさんあります。


付加価値の少ない仕事を無くして、付加価値のある仕事にリソースを振り向けるということがカイゼンの原点です。


以下、今回のカイゼン事例のポイントを整理してみました。


  1. 標準品(オプション、チョイス含む)と特注品を区別する

  2. 標準品はボタン一つで出図できるようにカイゼンする

    1. 現状の姿を可視化し、問題を抽出する

      1. 自責のやり直し(知識不足、ミス など)

      2. 他責のやり直し(情報遅れ、情報間違い など)

      3. 計画の不備などによる長いリードタイム

  3. 上記問題点の原因を深掘りする

    • 基礎知識不足の原因

      1. 教え方は良いか?

      2. 知識のない人に任せていないか?

      3. わからないことを自覚できるか?

      4. わからないことを聞くことができる環境か?

    • ミスの原因 (機械に置き換えられれば、人的ミスは減少するので、分析に時間をかける必要はない)

      1. 設計手順は決められているか?

      2. 顧客情報がタイムリーに伝達されない

      3. 顧客情報の修正(営業の間違い、伝達ミス)

      4. チェック(検査)をなくす、減らす

      5. チェックをする理由を書き出すーある?

        • 原因を特定できないヒューマンエラーのチェックは、原因がわかるまではチェックは可

        • 上司承認をなくす

        • 承認が必要な理由を書き出すーある?

        • 上司は仕事のやり方を管理するのではないか?印鑑を押すことが管理ではない

標準品のカイゼンができた後、次にやるべきことは

  • 特注品設計の充実

  • 受け身から提案型へ移行する

  • 顧客の要望を丸ごと聞いていないか?製品の機能については、自社の方がプロなので、積極的に提案するー標準品で対応できる可能性大

  • 特注設計プロセスの確立

  • 営業を通すと不足する情報をどう確認するか

  • 必要な情報入手→設計構想→詳細設計→出図のプロセスを確立する

などなど、改善に終わりはありません。

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