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植物状態の患者の脳内には、心的プロセスが無傷のまま残っています

更新日:2022年5月29日

「意識の研究」(スタニスラス・ドゥアンヌ)を学ぶことは、コーチング理論の理解をさらに深めることができます。

「無意識の書き替え」などにおいて、独自の味をつけていきたいと勉強しています。


この一連のブログ投稿は私の学習ノートです。今回は、無意識、意識に続くテーマ

「意識のしるし」を書いていきます。


 

脳画像法によって、植物状態の患者とのコミュニケーション経路を確立できることを、医学雑誌『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン』に掲載された論文が証明しています。


論文で取り上げられている実験は非常に単純なものです。


オーウェンの想像課題を再検証してみます。

  • 意識の障害を持つ54人の患者のうち、5人はテニスをしているところや、部屋を巡回しているところを想像するよう指示すると、特有の脳の活動が出現しました。

  • 4人は植物状態にあり、そのうちの一人に二度目のfMRIセッションを実施しました。

  • そして、「あなたには兄弟がいますか?」などの個人的な質問をしました。

  • その際、著者のマーティン・モンティらは次のように指示し、純粋に心的な手段で答えさせました。

  • 「答えが〈イエス〉ならテニスをしているところを、ノー〉なら自宅の室内を巡回しているところをを思い浮かべてください。

  • そして〈答えは〉という言葉が聞こえたら想像を開始し、(リラックス)という言葉が聞こえたら中断してください」この巧妙な戦略は、みごとに功を奏しました。

  • 6つの質問のうちの5つに関して、すでに特定されていた二つの脳のネットワークのうちのどちらかが、はっきりとした活動を示しました。

  • 実験者自身は正しい答えを知りませんでしたが、脳の活動と患者の家族が提供する情報を比べると、5つの質問とも合致していました。



患者の脳内には、一連の心的プロセスが無傷のまま残っているはずです。


  1. 彼は質問を理解して正しい答えを引き出し、スキャンに先立つ数分間ワーキングメモリに保持しています。これは、言語理解力、長期記憶、ワーキングメモリが正常に機能していることを意味しています。

  2. 彼は、「イエス」をテニスに、また「ノー」を部屋の巡回に恣意的に関連づけた実験者の指示に意図的に従っています。

  3. 彼は適切なタイミングで指示に従い、続く5回のスキャンを通じて柔軟に反応を変えました。この実行注意と課題切り替えの能力は、中央実行系(情報処理を行う認知システム) が保持されていることを示します。


証拠はわずかで、厳格な統計家なら、5問ではなく少なくとも20問には答えて欲しかったと言うかもしれませんが、この患者には意識と意志が依然として残されているという事ができます。


このように患者の脳は、一連の任意のモジュールを経由して柔軟に情報を伝達しています。


この発見はそれだけでも、彼のグローバル・ニューロナル・ワークスペースが無傷であることを示しています。


このように意識がいきているにもかかわらず、その事実が、徹底的な検査によっても見逃されているケースがあり得るのです。


オーウェンの研究が発表されると、このニュースはメディアを通してただちに広がりました。

しかし残念ながら、ジャーナリストのなかには、「昏睡状態の患者には意識がある」などという愚かな結論を引き出した者もいました。


ジャーナリストの誤解は、どこでも余計な問題を引き起こしています。


実を言えば、そのような患者がどのくらいいるのかはよくわかっていません。

というのも脳画像法を用いたテストは、肯定的な結果が得られた場合には、意識はあるとほぼ確実に言えますが、聴覚消失、言語障害、覚醒度の低さ、注意力を維持する能力の欠如などのさまざまな理由によって、意識があるのにテストに通らないケースは多々考えられるのです。


反応を示した患者はすべて、脳に外傷を受けていました。

それに対し、重度の卒中や酸素の欠乏のために意識を失った患者が、課題遂行能力を示すことはありませんでした。


おそらく彼らの脳は、テリ・シャイボのように、皮質のニューロンに広範かつ根本的に回復不可能な損傷を受けたからだと考えられます。


植物状態の患者に無傷の意識を発見する「奇跡」は、わずかなケースでのみ起こるのであり、それを利用して、すべての昏睡状態の患者に無制限の医療サポートを提供するよう求めるプロライフ議論を展開することには、かなりの無理があります。


31人の最小意識状態の患者のうち30人は、テストに通りませんでした。

ところが臨床テストでは、これらの患者の全員が、ときおり意志や気づきの存在を示す徴候を見せていました。


いまだに2つの問題があります。

  1. 「最小意識状態」の診断が下されても、必ずしもその患者に完全に正常な意識があることではない

  2. オーウェンの想像課題は、意識を過小に見積もる可能性がある


これらの問題のゆえに、一発で意識の存在を確実に実証するテストは今後も考案されないでしょう。


そのようなテストをいくつも考案し、そのなかに患者の意識とコミュニケーションを確立できるものがないかどうかを確認することが重要です。


残念なことに、fMRIは非常に複雑で高価な装置であるため、この目的にはあまり向いていません。通常一度か二度スキャンにとどまってしまうからです。


エイドリアン・オーウェン自身が指摘するように、「患者とコミュニケーション経路を開設しながら、患者と家族のために日常的に支援を継続できないのは非常に残念です。」


自発的な反応のはっきりとした徴候を見せたオーウェンの二人目の患者でさえ、閉じ込め状態という牢獄に戻る前に一度テストできただけでした。


いくつかの研究チームは、単純な脳波検査(EEG)の技術を用いた脳/コンピューター・インターフェースの開発を急いでいます。

EEGは、頭部表面から入力される電気信号の増幅を必要とするだけの安価な技術で、臨床現場で日常的に利用できます。


しかし、テニスをしているところや室内を巡回しているところを患者が思い浮かべるのを、EEGで追跡することはきわめて困難です。


また、脳にコンピューターをつなぐという挑戦に強い関心を抱くエンジニアも多くおり、ますます高度なシステムが開発されつつあります。


現在のところ、それらのほとんどは、多くの患者には不得手な、視覚的な注視や注意に基づくものですが、聴覚的な注意や運動イメージを解読する技術にも進展が見られます。


さらに軽量な無線記録装置を開発して、ゲーム産業がこの分野に参入してきました。

外科手術によって、麻痺した患者の皮質に直接電極を埋め込むことも可能になってきました。


そのような装置を用れば、四肢麻痺患者は、ロボットアームを心で操ることができます。

将来、言語領域にその種の装置を埋め込んで、音声合成によって患者の言いたいことを実際の音声に変えられるようになる日が来るかもしれません。


「20年後には、自分の意思で車いすを操る四肢麻痺患者や閉じ込め症候群患者の姿が、日常的に見られるようになるだろう。」と言われてます。

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