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動物の「メタ認知」能力

更新日:2022年5月29日

「意識の研究」(スタニスラス・ドゥアンヌ)を学ぶことは、コーチング理論の理解をさらに深めることができます。

「無意識の書き替え」などにおいて、独自の味をつけていきたいと勉強しています。


この一連のブログ投稿は私の学習ノートです。今回は、無意識、意識に続くテーマ

「意識のしるし」を書いていきます。


 

マカクザルが、人間のものと同じようなグローバル・ワークスペースを備えている点に疑いはありません。


このブログでは、感覚刺激を選択してそれに気づく能力のようなコンシャスアクセスに焦点を絞ってきました。


これは非常に基本的な能力なので、サルや、おそらくは他の多くの動物も持つと思われています。


しかしさらに次元の高い認知機能という点になると、人間は明らかに他の動物とは違います。

「人間の意識のワークスペースには、私たちと他の動物を劇的に分かつ独自の特質が備わっているかどうか」という点がポイントになります。


最近では、動物に高度な自己省察の能力があることを示す事例が報告されるようになってきました。


誤りの検出、成功や失敗の考察などの二次的な判断が必要とされる課題でも、動物は私たちが考えているほど無能ではありません。


自分の思考について思考するこの能力は「メタ認知」と呼ばれます。


メタ認知は、自分の思考に信念や自信の度合いを割り振ることで、自らの知識の限界を知ることと関係しています。

実験による証拠が示すところでは、サル、イルカ、さらにはラットやハトでさえ、この能力のあることが示されています。


この写真は、ナトゥアではありません


フロリダ州マラソンにあるイルカ研究センターのイルカ、ナトゥアは、高低によって水中音を識別できるよう訓練されました。


彼は、低音が聞こえた場合には左側の、高音の場合には右側の壁のパドルを押して、この課題をみごとにこなしています。


実験では、周波数2000ヘルツを高音と低音の境界に設定しています。音がこの周波数からかけ離れている場合、ナトゥアは正しいパドルのほうにすばやく泳いで行きます。


逆に音がこの周波数に近いと、彼の反応は鈍るのです。やがて躊躇するかのようなしぐさを見せながらどちらかのパドルに向かって行き、間違えるケースも多くあります。


境界に近づくほど識別が困難になるのは、むしろあたりまえです。

人間や他の多くの動物が決定に要する時間と誤りを犯す率は、識別すべき対象間の差異が減少すればするほど増大するのが普通だからです。


しかし人間に関して言えば、知覚における対象間の差異が縮まると、自信の欠如という二次的な感覚も引き起こされます。


音の高さが境界に近づくと、私たちは困難に直面していることを認識します。

不確かさを感じ、これから下す判断が誤りである可能性は高いと考えます。


そしてできることなら課題を放棄して、「私にはよくわかりません」と率直に答えたくなるでしょう。

これは典型的なメタ認知、「自分が知らないことを知っている」という知恵なのです。


ニューヨーク州立大学のJ・デイヴィッド・スミスは、「逃げの応答」という巧妙なトリックを考案しました。

最初に知覚訓練を施したあと、彼はナトゥアのために三つ目のパドルを用意しました。


ナトゥアは試行錯誤によって、この三つ目のパドルを押すと、あいまいな音が、容易に識別可能な低音(1200ヘルツ)にただちに置き換えられ、それによってわずかながら報酬がもらえることを学習しました。


要は、三つ目のパドルが与えられると、ナトゥアは課題から「逃げる」オプションを選べるのです。


ただし、あらゆるトライアルでこのオプションを行使することは許されず、逃げのパドルは慎重に使わねばなりません。

報酬がもらえるまで、長時間待たされることになるという縛りを入れてあるのです。


この実験により、ナトゥアは自発的に、むずかしいトライアル、すなわち音の周波数が2100ヘルツに近い、間違いを犯し易いトライアルでのみ、逃げの応答を用いたのでした。


それはあたかも、一次的な行動に対する二次的な「コメント」として三つ目のパドルを用いているかのようでありました。

彼はそれを押すことで、「課題に応えるのが困難であることがわかっている」、そして「より簡単なトライアルをしたい」と伝えているのです。


このように、イルカは自信の欠如に気づけるほど賢いのです。


この解釈を否定する研究者もいます。

「イルカは報酬を最大化するよう訓練された運動行動を示しただけで、通常と異なるのは二つではなく三つの応答が考慮されている点のみだ」と彼らは言います。


強化学習課題で通常見られるように、イルカは三番目のパドルの押下を有利にする刺激を同定しただけで、イルカの行動は機械的なものにすぎません。


過去の多くの実験がこの解釈を除外できないのは確かだが、サル、ラット、ハトを使った最新の研究はこの批判に応えるに十分なものであり、情勢は純粋なメタ認知能力の存在を認める方向に大きく傾きつつあります。


動物はときに、報酬のみを基準に予測し得る以上に、知的な方法で逃げの応答を駆使します。


選択をしたあと、かつ下した選択が正しいか否かを教えられる前に、逃げのオプションを与えると、彼らはどのトライアルが主観的に困難に感じられるかを仔細にモニターします。

たとえまったく同一の刺激が与えられても、もとの応答を維持したトライアルより、逃げの応答を選択したトライアルでのほうが成績が悪かったのです。


どうやら彼らは、自らの心の状態をモニターし、何かの理由で気が散ったために、処理したシグナルが通常より不明確だったトライアルを振るい落としているらしいのです。


彼らはあらゆるトライアルで自己の自信を評価し、それが欠如していると感じた場合にのみ逃げの応答をしているのです。


最近の実験によれば、少なくともサルでは、過度に訓練されたただ一つの文脈に限定されるわけではないようです。


たとえばマカクザルは、最初に訓練された文脈を超え、逃げのキーを自発的に一般化して用いることがわかっています。

感覚課題で特定のキーの意味を発見すると、ただちにそれを記憶課題という新たな文脈で使えるのです。


具体的に言えば、「私にはうまく知覚できなかった」ことを報告する方法を学び、それを一般化して「私にはうまく思い出せない」ということを報告する際にも使えるようになるのです。


これらの動物は、明らかに自己に関する知識を持っています。


自己モニターのメカニズムでさえ、無意識のうちに働きます。

キーボードのキーを押し間違えたり、目が間違った目標に引きつけられたりするとき、脳はこれらの誤りを自動的に検知し、修正します。


しかし、サルの自己に関する知識は、そのような識閾下の自動メカニズムのみに基づいているわけではないという議論もあります。

彼らの逃げのオプションの選択は非常に柔軟なもので、訓練の対象にはなっていない課題にも適用されます。


彼らは数秒間過去の決定について考えますが、それは無意識のプロセスの到達範囲を超える期間を対象にした反省行為なのです。

それには逃げのキーを押すという任意に定められた応答手段を用いなければなりません。


神経生理学的に言えば、証拠の緩慢な蓄積と、頭頂葉および前頭前野の高次の機能を必要とします。


この点はさらなる研究によって検証されねばなりませんが、緩慢で複雑な二次的判断を、気づきを欠いた状態で下せるとは考えにくいのです。

そう考えますと、動物の行動は、意識や反省的な心の特徴を反映するものとしてとらえることができます。


おそらく私たち人間は、既知の知を持つ唯一の動物ではないでしょう。

他の動物種も、自らの心の状態を振り返る能力を持っているからです。

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