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乳児の意識②

更新日:2022年5月29日

「意識の研究」(スタニスラス・ドゥアンヌ)を学ぶことは、コーチング理論の理解をさらに深めることができます。

「無意識の書き替え」などにおいて、独自の味をつけていきたいと勉強しています。


この一連のブログ投稿は私の学習ノートです。今回は、無意識、意識に続くテーマ

「意識のしるし」を書いていきます。


 

MRIによる測定の結果ドゥアンヌの研究チームは、「乳児の言語ネットワークは機能している。ただしとりわけ前頭前皮質では、処理速度は成人に比べて非常に遅い」ことを確認しました。


しかし、言葉に注意を向けた生後2か月の乳児が、言語処理のあいだに大人と同じ皮質のネットワークを活性化させるという観察結果は、決定的なものではありません。


これらのネットワークの大部分は、麻酔下など無意識のうちにも活性化しています。


ドゥアンヌの研究チームの実験は、乳児が初歩的な形態の言語ワーキングメモリを備えていることを示します。

それは、14秒後に同じ文を繰り返し聞かせると、乳児は記憶の徴候を示したのです。


乳児のブローカ野は、最初に文を聞いたときよりも二度目に聞いたときのほうが強い活動を見せました。


生後二か月の時点ですでに、乳児の脳は意識の特徴の一つ、数秒間ワーキングメモリに情報を維持する能力を備えているのです。


言葉に対する乳児の反応が、目覚めているときと眠っているときでは異なることもわかりました。


聴覚皮質はつねに活性化していますが、背外側前頭前皮質への活動の伝播は目覚めているときにのみ生じます。


眠っている乳児では、この領域には平坦な曲線が見られますので、成人のワークスペースの重要なノードをなす前頭前皮質は、どうやら目覚めた乳児でも、おもに意識に関わる処理に寄与しているらしいことがわかります。


植物状態の成人患者の残存意識を調査する局所/大局テストについては、この記事でとりあげました。このテストは、患者に「ビービービービー ブー」などの一連の音を繰り返し聞かせ、そのあいだにEEGを用いて患者の脳波を記録します。


ときおり規則性を破る、「ビービービービービー」などの音の連続を聞かせます。この新奇性によって広域的なP3波が喚起され、前頭前皮質や、それに結びついたワークスペース領域に広がると、その患者に意識がある可能性は非常に高いものでした。


このテストの実施は、教育、言語、説明はまったく不要です。したがって乳児にも(ほとんどどんな動物にも)簡単に適用できます。


但しこのテストには、唯一の問題があります。、テストが繰り返されると乳児がすぐに機嫌を損ねてしまうのです。


そこで、乳児が不機嫌にならないように、魅力的な顔が「ああああああ ええ」など、母音の連続を発するところを録画したマルチメディアショーに改造しました。



口元を動かしつねに変化するこの顔は、乳児を魅了します。こうして乳児の注意を惹きつけられると、生後二か月の乳児の脳でも、新奇性に対する広域的な反応、すなわち意識のしるしを示すことがわかりました。

しかし、研究者の分析では、乳児における脳の反応時間は、大人に比べて著しく遅いのです。


あらゆる処理ステップで、不釣り合いなほど長い時間がかかります。乳児の脳は、母音の変化をとらえてミスマッチ反応を無意識のうちに生成するのに3分の1秒かかります。


さらに、前頭前皮質が大局的な新奇性に反応するまでに1秒がかかります。これは成人と比較して3倍から4倍遅いスピードです。


成人では、マスキングがされていると、ターゲットの画像がおよそ20分の1秒以上表示されない限り、何も見なかったと報告します。


乳児は言葉で答えられませんが、閾値未満で顔の画像がフラッシュされると、乳児はそれを凝視しないことで見えていなかったことを示しています。

しかし閾値を超えるくらいまで表示期間を延ばすと、乳児の視線は顔に向けられました。


つまり乳児は、成人と同様に、マスキングの影響を受け、知覚の閾値を超えて表示された場合にのみ顔を認識したのです。


この閾値は、成人より乳児のほうが2倍から3大きいことがわかりました。

生後10か月から12か月になると、前頭前皮質の働きによる行動が現れ始目ます。その頃には乳児の閾値は成人と同じ値になります。


明らかに乳児の脳は、フラッシュされた顔に関して手に入る証拠を集めているのだ。

次のフェーズでは、顔のイメージが閾値を超える期間表示された場合にのみ、前頭前皮質に遅い陰性の脳波が引き起こされた。


機能的および形状的に見て、この後期の活動は、成人のP3波と多くの点で類似する。感覚入力による証拠が十分に集まれば、乳児の脳ですら、速度が大幅に劣るとはいえ、それを前頭前皮質まで伝えることが可能なのである。


この二段階の処理構造は、意識を備え、何を見たかを報告する能力を持つ大人におけるものと基本的に同じであり、したがって、たとえ言葉による報告はできなくても、乳児もすでに、意識的な視覚を経験していると前提しても差し支えないでしょう。


乳児の脳は未熟なため、コンシャスアクセスは成人同様に存在すしますが、非常に緩慢で、おそらくは最大で4倍ほど遅いのです。


軸索を取り囲む脂肪質のミエリン鞘は、幼少期、さらには思春期に至るまで成熟し続けます。

乳児の脳のウェブは、配線はされているが絶縁はされていません。


情報の統合は、はるかに緩慢に行なわれるのです。乳児の緩慢さは、昏睡状態から回復しつつある患者の緩慢さとも同類です。


正確にどの時点で乳児に意識が誕生するのかは依然としてわかっていません。

しかし、新生児の脳には、すでに長距離神経結合が解剖学的に張り巡らされており、その処理能力も緩慢ですが十分にあります。


スウェーデンの小児科医ヒューゴ・ラーゲルクランツと、フランスの神経生物学者ジャン = ピエール・シャンジューは、「誕生は意識への最初のアクセスに一致する」という非常に興味深い仮説を提起しています。


彼らの議論によれば、子宮内の胎児は、「神経ステロイド麻酔剤プレグネノロンと、胎盤によって供給される催眠性のプロスタグランジンD2」を含有する薬物の流れに浸って、基本的に鎮静化された状態にあります。


誕生は、ストレスホルモンや、カテコールアミンなどの刺激性神経伝達物質の分泌の大規模な高まりに一致します。


通常それに続く数時間のうちに、新生児は目を大きく見開いて目覚め、元気に活動し始めます。


このときすでに、乳児には意識があるとすれば、出産が意識の誕生を意味すると言えるかもしれません。

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