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執筆者の写真Hatsuo Yamada

苦労して作成した標準工程表の威力は、想像をはるかに超えていた。④


ある大型機械メーカーのお話です。製造に約1ヶ月もかかる大型機械、これまで何年もカイゼン活動を続けてきても、なかなか画期的な成果は出てきませんでした。


それはなぜだったのか?


ーー認知科学コーチングで言えば、スコトーマが外れなかったからなのです。

ーーカイゼンで言えば、現状打破、思い込みが外れたからなのです。

(スコトーマ=心理的盲点)


今までは、部長、課長、班長が中心になって活動していましたが、日頃から大型機械の複雑な構造を熟知している

ユニットリーダーのマインドが、分厚く積もっていた、スコトーマを見事に払い除けました。


認知科学のコーチングとトヨタ式カイゼンによって、職場の情報空間(それぞれの作業者のマインドの集合)に大きな変革が起こりました。


連載第4弾です、

モデル工程でカイゼン手法をみっちり習得。 コレクティブ・エフィカシーを押し上げました。



 



4.モデル工程でカイゼン検討を習得して、コレクティブ・エフィカシーをさらに上げる


はじめは「標準作業の世界を創る」って具体的には何をやったら良いの?と言う質問がありました。


標準作業の世界を創ることは手段ですので、ダイレクトにそれを目的とするのではなく、「経験の浅い作業者でも仕事の順番がわかるようにしよう」と言う見方をしてもらいました。


すると、「組立課には工程表がないんだよ。ユニットリーダーや経験者の頭にある順番でやっているから」と言う意見が出ました。


そこで、「標準工程表を創れば、仕事の順番が明確になるので、経験の浅い人も順番がわかる」と言うことが理解できて、早速取り掛かることになりました。


ここま読んでいただいた方の中には、すごく当たり前の展開ではないかという印象をお持ちになっている方も多いのではないかと思います。


1ヶ月間続く作業を全て記録することは、実際に手掛けようとするとやはりハードルが高く、これまでも何度も挑戦しようとして果たせなかった大きな課題でした。


トヨタ式では、現状の見える化がスタートです。現状のありのままの姿を見える化することを、「表をとる」と言います。


現状のありのままの姿が可視化できたものを表準(おもてひょうじゅん)と言います。


木偏の標準に対して、表という漢字を当てて、「現状を表に出す」という意味をもたせています。

まさに可視化、視える化のツールです。


今回は、現状は人によって風景は違っても、各ユニットリーダーの頭の中に描かれています。


まず、ユニットリーダーの頭の中にある現状の工程をエクセルに落とし込んでもらいました。

この組織ではエクセルに書き込んでいく方法を採りました。


最初から可視化するツールを市販のものを活用しようとする組織もありますが、なかなか1ヶ月の作業を可視化しようとすると、ピッタリくるものがありません。


表準順は一度書いて終わりではありません。

絶え間なく改善して、書き換えていくものです。


ある程度使いこんで、自分たちのものになってから市販のソフトを買うも良し、自作するも良しと考えましょう。




私はその初版を見せてもらいましたが、予想通り非常に大雑把なものが書かれていました。


よく仕事がわかっている人は、自分が当たり前なことだと認識していることを省略する傾向にあります。


ですから、表取りをする時には、できるだけ第3者で、その仕事に関する知識の少ない人がインタビューしながら作ると、抜け漏れを防ぐことができます。


今回は、書き換えることを前提に、まず作成してもらったものを見ながら検討を進めて行きました。


トヨタ式では、工程ごとに付加価値をつけているかどうかで見ていきます。


作業者一人一人の付加価値が1つの製品になるという見方です。


例えば、ある部品を組み付ける工程を例に取りましょう。


トヨタ式では付加価値は物が組み付けられた、ほんの一瞬の瞬間だけを付加価値と見ます。


  1. 部品をパレットから取り出して、

  2. ワークにセットして、

  3. インパクトレンチを右手に持って、

  4. ビスを左手に持ってビスを部品のところまで持っていって、

  5. インパクトレンチをビスの頭の溝に当てて、

  6. 最後にインパクトレンチで締めるという一連の作業があります。

付加価値は、最後のビスを回す一瞬だけです。


作業をできる限り細かく見ていくことで、その中に付加価値でないものを見出すことができるのです。


車作りのカイゼンは長年の積み重ねで、極めて詳細に分割されていますが、今回のような1ヶ月もかかる大型機械の場合、最初から細かく見すぎてしまうと、全体がわからなくなってしまいます。


また、もっと大きなカイゼンポイントを後回しにしてしまう恐れもありますので、今回はそこまで深追いはしないことにします。


それでも、表準を作っている過程で早くも

  • 作業場に供給された部品をパレットから取り出して、作業順番通りに並べ直す作業や、

  • 部品を撮りにいく作業、部品のカエリ(バリ)などの仕上げ不良

などがたくさん目につき始めました。


表に出した工程を、なくす(N)減らす(H)変える(K)NHKの視点で検討しながら、作業順番も確定していきました。


はじめにモデルとした工程は、やく8時間ー1日分でした。

これを一つ一つ3ヶ月かけて検討していきました。すると、ざっと30〜40%の工数低減が見込めることがわかりました。


10月から12月まで、3ヶ月の机上の検討ではありましたが、カイゼン検討に当たった嶋崎をはじめユニットリーダーたちは、これで達成感を味わうことができました。


確実な手応えがありました。先に説明したエフィカシーはうなぎ登りに上がって行きました。


この勢いのまま、残りの20日分の作業を一気にカイゼンしていき、予想以上に早く12月には1台分の工程表が出来上がりました。


4月のミーティングから9ヶ月で、標準工程表が完成しました。


後で聞いた話ですが、12月に嶋崎が顧客先へのメンテナンス業務で、海外出張している時に、Covid19の影響で、ホテルに足止めを食っている間、精力的に標準工程表を作成していたということでした。


コーチング的にいうと、ゴールに向かってエフィカシーが上がり、夢中でカイゼン作業に取り組んだ結果です。


他人から見ると、20日分の工程表をまとめる作業は非常に苦労の多い作業で、完遂するだけでも苦労の多い作業です。


しかし、彼の頭の中にはゴール達成が臨場感を持って書き込まれています(自分でコンフォートゾーンを移動させています)ので、


苦労を苦労と感じずに、淡々とやり切れたということなのです。


コーチング理論がピッタリ当てはまる事例でした。

(続く)

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