ある大型機械メーカーのお話です。製造に約1ヶ月もかかる大型機械、これまで何年もカイゼン活動を続けてきても、なかなか画期的な成果は出てきませんでした。
それはなぜだったのか?
ーー認知科学コーチングで言えば、スコトーマが外れなかったからなのです。
ーーカイゼンで言えば、現状打破、思い込みが外れたからなのです。
(スコトーマ=心理的盲点)
今までは、部長、課長、班長が中心になって活動していましたが、日頃から大型機械の複雑な構造を熟知している
ユニットリーダーのマインドが、分厚く積もっていた、スコトーマを見事に払い除けました。
認知科学のコーチングとトヨタ式カイゼンによって、職場の情報空間(それぞれの作業者のマインドの集合)に大きな変革が起こりました。
連載第2弾です、リーダーのマインドは製造現場も管理関節職場も同じです。
嶋崎リーダーの心の中のセルフトークを覗いてみましょう。
まず活動のはじめのミーティングでは、ある会社をモデルにした「管理監督者のあるべき姿の明確化」という絵を見せられました。
この会社でも自分たちと同じように管理監督者があるべき姿を議論して、1ランクアップの役割ができるように改善活動を進めて行ったそうです。
嶋崎は日常では、部下に元気な声を掛けるとか、元気のない作業者を呼び寄せて様子を聞くなどは、気がついたらやるようにしてはいました。
でも、それだけでユニットリーダーの役割を果たせているかと自問すると、自信はありませんでした。
「あまり真剣に考えたことはなかったな。」と言う思いが、漠然と脳裏に浮かんできました。
常に作業者が働きやすいように配慮はしているつもりでしたし、かなり部下の面倒を見てやっていると言う自負はありました。
それ以上具体的に何をしたら良いのかすぐには思いつ来ませんでした。
正直なところ、嶋崎はその時はそれで良いような気もしていました。
すると部長が、「会社の規程の中にはユニットリーダーの役割としてこういう項目があるんだよ。」と言って全社規程書を見せてくれました。
嶋崎は初めて読みましたが、こうやってユニットリーダーの役割を列挙されたものを読んでみると、どれも自分の仕事ではないというものはありません。
すべて自分が担うべき役割です。これには異論はありませんでした。
- 安全管理
- 担当製番の工程管理
- 就業管理
- 2Sや担当設備の管理
- 部下の人材育成
- 改善活動
嶋崎はこれらの役割を持ちながらも、
「自分はこれらの役割を担いながら、自ら作業を行うプレイイングマネジャーだったんだ。」と考えました。
「重大な任務だったんだな。」と言う感想もありました。
自分も作業をやりながら、QCD(Quality,Cost,Delively) を確保して、部下の面倒も見なくてはいけないのです。
どこの会社でも、このような役割を担ってもらう人材には、経験をもった「仕事のできる人」をあてる事が多いものです。
そういう人は、部下からも一目置かれていて人望も厚いため、グループを統率する力も期待されています。
彼らが造っている大型機械KZ1000XAは、組み立て工程だけでも完成までに20日、カレンダーでは一ヶ月もかかる大規模なものです。
機械の構造は複雑で、隅から隅までを全てを理解するには、かなりの経験が必要になります。
だから経験者が重視されて、高度な作業は若手の作業者には手が届かないものになってしまうのです。
時代とともに変化はしてきてはいますが、まだ昔の徒弟制度のような雰囲気が残っている職場でした。
「自分も作業をやりながら、QCDを確保して、部下の面倒も見る」ことについては、ユニットリーダーの先輩たちがやってきたことだから自分が引き受けなくてはならない役割だと、嶋崎は納得しています。
しかし、上記のように役割を列挙して眺めていると、身に余る責任の大きさに圧倒されそうになってしまいます。
自分の体一つではとても無理だという感情が湧き起こります。昔自分の若い頃は社会全体がのんびりしていて、一人前になるのに10年はかかるのが職場の常識でした。
振り返ると、周りには先輩がたくさんいて、厳しく怒られたりもしましたが、みなさん優しく自分を育ててくれたことを懐かしく思い出します。
日頃の工程の状況を振り返ってみると、
ユニットリーダーである自分から細かい作業指示ができていないため、作業が間延びしてしまい、能率がダウンしてしまっているのではないか
という反省が一番大きく頭に浮かんできました。
その場その場では作業者が手待ちにならないように、十分注意を払っているつもりですが、若手の作業者ができる仕事を探して当てがうと、仕事の先食いになってしまうこともしばしばです。
自分以外の3人の作業者ごとに、どの作業をいつまでに済ませ、その次はどの作業に進むべきかわかっていれば良いのですが、残念ながら今はそうなってはいません。
ユニットリーダーの指示を待っている人がいることに気づくと、自分の手を休め、状況を見極めてから指示をしているのが現状です。
自分が指示をするまで、作業者が手待ちの状態になってしまうのと、自分の作業が中断してしまい、毎日のように非効率を感じています。
なんとかしたいと思うのですが、他の3人が気を効かして自律的に作業してくれることに期待しているのが現状の正直なところでした。
しかし、自律的に作業してくれることに期待しているということは、彼らが期待通りに動いてくれないと、ストレスを感じながら毎日を過ごしているということになります。
毎日こうするしか仕方がないと自分に言い聞かせているのが現状なのですが、お互いにストレスを感じながら仕事をしていたのではないかと言う気持ちもあります。
指示待ちの作業者を作らないためには、新入社員や転入者が早く自立できる世界を作らねばなりません。
彼らだって、指図されて動き回るよりは、自らの考えて動いた方がやりがいは持てるはずです。
自分も先輩から仕事を任された時には、充実した感覚の伴う嬉しさを感じたものでした。もちろん人材育成は自分の大事な仕事でした。
嶋崎は「あるべき姿」という言葉を聞いて、自分の中で色々考えました。
やはりこのままではいけない、何とかしなくてはという気持ちが、自分の心の中に沸々と湧き上がってくるのを感じました。
今、浮かんできた「自立」と言う言葉が頭に引っかかていました。
(続く)
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