今日から4月ですが、3月は、私が支援しているカイゼン活動の節目になります。
もちろん組織によって温度差はありますが、支援者の私にとって感動的な成果を上げている組織があります。
技術者として、「良い製品を創りたい」と言う思いは、エンジニアなら当然皆さん持っておられます。
気概と言う言葉は普段はあまり使いませんが、「エンジニアの気概」は、心の中に燃え続けているようです。
それに火がついて、全員に燃え広がりました。
設計の仕事は図面を描く作業だけではありません。
「価格と利益と実現手段に責任を持つ」人が真の設計者です。
担当の部品に課せられた役割
与えられた制約条件(原価、質量、生産制約……)
工学的に美しい形状
真の設計者が検討して、図面に織り込むべき項目はたくさんありますが、その中でも、原価企画活動は、もっとも重要と考えられています。
これぞ、掛け値なしの本物の製造業の「儲かる仕組み」です。
会社として存続するために利益を上げなければなりません。
トヨタでは、「製品企画の仕事=原価企画の仕事」と言えるほど、製品開発における原価企画を、とても重視しています。
各設計者はその責任を、自分の担当部品ごとに担っていると言う訳です。
私はA社において、この原価企画の導入を、関係者の皆さんと共に挑戦しました。

この図をご覧ください。
原価企画では、目標を決める事が重要です。
原価企画目標を決める公式は「原価」=「売価」ー「利益」です。
お客様は、販売店で色々と商品の細かい説明を聞いたうえで、購入するかどうかをご判断されます。
車なら、「スポーツタイプでなく、少し落ちついた感じの車が良いな」とか、「色はグレーにしようかな」などご検討されて、
「これなら、この値段を払っても良いかな」と言う金額で、最後のご決断をされます。
それが、この図の左の「お客様が買ってくれる値段」と言うことになります。
そして、会社として存続するために必要な利益を差し引いた金額で、お客様の満足して頂ける製品を作らなければなりません。
製品開発の中で、部品の色や形状などを検討することに加えて、それぞれ「お客様が買ってくれる値段」で、部品を設計していく必要があるのです。
これが原価企画目標となります。目標金額は部品ごとにブレークダウンされて、各担当者のターゲットが明確に決まっていきます。
A社でもこれと同じ「原価」=「売価」ー「利益」の考え方で、目標設定にトライしました。
まず、最初の壁は、「お客様が買ってくれる値段」の設定です。
技術部門だけでは決められないので、営業部門に相談して決めることになりました。
営業部門は、技術部門から「お客様が買ってくれる値段」を教えて欲しい。と聞かれましたが、初めてのことですので、どうしたら良いかわかりませんでした。
「いつもお客様からは、『もう少し安くしてほしい』と言われているしなー。」
「確かに競合のX社に比べると高いので、お客さまをX社に取られてしまうケースが最近多くなってきたな。」
ほとんどの会社では、競争相手があります。これは健全なことで、ライバルがいない会社は、競争に対する感覚がないので、のんびりした感じが漂っています。
そのような会社では、ほとんど進歩が見られません。
営業部門も日頃の考えていた問題が、少しずつ整理されていきました。
そして、営業部門から、2,550,000円/台なら、標準タイプで競合にも負けない価格でお客様に提供できます。この値段なら、「お客様が買ってくれる値段」と言う金額が提示されました。
次に、経理部へ目標利益を聞きにいくと、200,000円/台が提示されました。ちなみに現状の利益がどうなのか聞いてみますと、25,000円/台しかないと言われてしまいました。
自分達の開発した製品がこんなに儲かっていないとは思っていませんでしたので、正直言って少しショックを感じました。
そして、遂に、原価企画目標 2,350,000円/台 と決まりました。
2,550,000 - 200,000 = 2,350,000
エンジニアたちは、売価と原価と利益について、短期間でいろいろなことを考えさせられました。
「自分達は怠けていたわけではない。」
「精一杯努力してきたつもりだった。」
「その割には、会社に貢献できていなかったことにショックを受けた。」
「新製品は、もっと魅力ある商品をリーズナブルな価格で開発してみせる!」
製品原価 235万円で作ることができれば、単純計算で現在の8倍の利益です。
エンジニアたちの努力が、会社に8倍の利益を貢献できることになります。
「販売台数が増えれば、8倍どころじゃない!」 今までは、「原価企画目標 2,350,000円/台 を目指して頑張れ!」
と言われていただけでした。
「原価」=「売価」ー「利益」の公式には、上記のようなストーリーがあります。
しかしそうは言っても、2,350,000円/台を達成するには、20万円程度の原価低減をする必要があります。
各エンジニアには、自分達のやるべきことが腹に落ちました。
それからです。今まで無理だと思われる技術にも、積極的に挑戦してみようという気持ちになってきたのです。
大幅な構造変更案が、若手の技術者から提案されました。
その場で反対する人は一人もいませんでした。
「やってみよう!」「できるかも知れない。」「こんな案もありますよ。」
こうやって今までだったら、「無理だ!」「そんな構造にして、問題があったらどうするんだ?」と言う言葉が、全く聞かれなくなりました。
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