5月23日「絶え間ないカイゼンサイクルの始まり」の続編です。
昨年の今頃でした。彼らは生産開始時期を1年間繰延してしまうという事態に陥りました。
実は、彼らは繰延をトップに了承を得た時点で、内心ほっとしていました。
「1年あれば、解決できる」という確信がないものの、とにかく延期できたことに安心していました。
しかし彼らはメンバーの間で議論を重ねました。
事実を分析して、原因をしっかり把握することで、「次は同じ失敗を繰り返さないぞ」という強い決意をしました。
問題の原因を分析してみると、重大な「工程飛ばし」があったことに気づくことができました。
多忙だったからとは言え、決められた手順をスキップしてしてしまいました。
また、CAE解析をしたのですが、CAEを使いこなすスキルが足りなかったため、解析結果は役に立たない情報だったのです。
CAEを活用するには、基礎となる理論をしっかりと踏まえた上で使う必要があります。
解析結果が本当に妥当なものなのかの確認も十分に検討できたとは言えませんでした。
新規構造を考案して、画期的な原価低減案が提案できたのですが、その成立性を初期段階で検証するプロセスを計画通りに実行していませんでした。
![](https://static.wixstatic.com/media/6f9786_0b7181f7b66b4ce9b471db67eb12f9d8~mv2.jpeg/v1/fill/w_700,h_474,al_c,q_80,enc_auto/6f9786_0b7181f7b66b4ce9b471db67eb12f9d8~mv2.jpeg)
やはり、課題解決(仕事)は人(の能力)とプロセスです。
このフレームを前提に、問題の原因をなぜなぜ分析します。
人(の能力)では、CAE解析のノウハウが不十分でした。
プロセスでは、初期の構想段階のプロセスを計画してあったにもかかわらず、十分にできませんでした。
プロセス飛ばしをやってしまったことに加えて、
「検証」プロセスの良品条件が明確になっていなかったことも問題でした。
具体的には、「初期検討シート(仮称)」を使わずに、上司に図面を使って簡易的な方法で説明し、上司もそれを認めてしまったのです。
「工程飛ばし」一旦決めたルールを、なし崩し的に変更するのは絶対に許されません。
OP(オペレーションプログラム)にしっかりと書き込んで、必須のプロセスとすることを徹底することになりましたので、プロセスの問題はこれで片付きました。
![](https://static.wixstatic.com/media/6f9786_dc266a8375f44b0990da935170b65cf5~mv2.png/v1/fill/w_690,h_538,al_c,q_90,enc_auto/6f9786_dc266a8375f44b0990da935170b65cf5~mv2.png)
今回はOP通りにやらなかったことが原因なので、当たり前ですがOP通りにやることが対策です。
もし、OP通りにやって問題が出たなら、それを克服することで新たな知見を得ることができます。
このように詰めていくと、残りは「人(の能力)」の問題=CAE解析のノウハウ向上ということに絞られてきます。
解析結果の精度が悪かったため、間違った判断を導いてしまったと言うことです。
これは、人の能力的な問題です。
解析技術を活用する方法と、解析に必要な基礎的な知識がなかったことが問題でした。
知識が足りなかったのですから、勉強して補うことが対策です。これしかありません。
世の中に全く存在しないような難しい知見ではありません。
社内を見渡すと、CAE解析技術を教えてくれる組織がありました。
早速協力を要請して、具体的な計画を組んで勉強がスタートしました。
後で分かったことですが、社内の技術開発研究所では、ちょうどこのタイミングでCAE解析を社内に広めるというミッションを持って計画を立案中でした。
「渡りに船」という言葉がピッタリです。
社内を新たな技術的知見などで、啓蒙しようという推進事務局は、必ずと言って良いほど悩みを抱えています。
啓蒙される人たちは、自分が比喩用だと感じていない物に対しての反応は、冷ややかです。
喉から手が出るほど欲しているものであれば、躊躇なく飛びついてきますが、自分には関係ないことは、全く無関心です。
これは、認知科学でも説明できます。
人間の脳には、RAS(毛様体賦活系)というフィルターのようなものがあって、自分に関心あるものだけを意識に上げるように、脳がオーバーワークにならないように制御しているのです。
通常ですと、技術開発研究所の事務局、この場合は先生でもありますが、社内を歩き回って生徒を探し回らねばならないところでした。
しかし、この二つの部署の縁は繋がっていました。
「渡りに船」だったのです。
それからは、カリキュラムを組んで基礎的な理論の習得と、実際にCAEを使って正しい解析結果を得るには、どのようなデーターを入力すれば良いのかを試行錯誤して実験する日々が始まりました。
温度上昇、電界発生のシミュレーション、強度などを実際の実験結果のデータと見比べながら、知見を積み重ねていきました。
活動の進捗を早めるために、先生である技術開発研究所の事務局もある部分を受け持って、実験を繰り広げました。
そして、彼らの活動は新たな知見を獲得することができました。
ちょうど1年が過ぎようとしている今、3月末改善活動報告会に間に合わせることができました。
下の図をご覧ください。
1年前に彼らの問題が発生しました。
振り返ってみると、①なんてこったまたか!!の問題ではありませんでした。
②何事だ!!何事が起こったんだ!!というところからこの活動が始まったのです。
![](https://static.wixstatic.com/media/6f9786_bfdb7a3422b5498eb3e7f3f8bd93387b~mv2.png/v1/fill/w_980,h_583,al_c,q_90,usm_0.66_1.00_0.01,enc_auto/6f9786_bfdb7a3422b5498eb3e7f3f8bd93387b~mv2.png)
Pは、計画です。今回はOPを作成して、標準作業の考え方を採用しました。
OPは皆さんの財産です。物理空間であれば、生産ラインのようにバランスシートの左側、資産の部に計上されるべきものです。
今回はOP通りにできなかった問題もありましたが、これもOPがあったから肯定飛ばしに気づくことができたのです。
また、CAE解析データに問題があったことも、OPをなぞっていて、意思決定の根拠を調べてみて気づくことができました。
原因が特定できたから、CAEを正しく活用することの重要性に気づきました。
そして「こりゃ勉強しなきゃいけない!」と思った時に、「渡りに船」先生が向こうからやってきてくれました。
そして、先生の力を借りて、自分たちの成長に繋げました。
そしてみなさんが、あの時点で反省せずに終わってしまっていたら、現時点の達成感は味わえなかったと思います。
今回みなさんは問題を見つけて、OPの改善を始めました。OPを回す人の能力も十分に向上させることができました。
これで、みなさんの作った資産は継続的に磨きをかけられていきます。
今回の活動は、OPCAの最初の1回転です。
ジム・コリンズの「ビジョナリーカンパニー1」で書かれているように、最初の1回転には、エネルギーが入りますが、2回転、3回転は加速度がついていきます。
これがトヨタウエイの「絶え間ない改善」です。
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