「意識の研究」(スタニスラス・ドゥアンヌ)を学ぶことは、コーチング理論の理解をさらに深めることができます。
「無意識の書き替え」などにおいて、独自の味をつけていきたいと勉強しています。
この一連のブログ投稿は私の学習ノートです。今回は、無意識、意識に続くテーマ
「意識のしるし」を書いていきます。
サルは意識あるニューロナル・ワークスペースを明らかに備えていて、自己や外界について考えることができると見なせますが、
人間はサルよりすぐれた内省能力を持っていることに疑いはありません。
人間の脳は何が違うのでしょうか?
大きさ、言語能力、 社会的な協力、 永続的な可塑性、教育などが考えられます。
これらの問いは、認知神経科学がこれからとり組まねばならない課題です。まだ、明確な答えが出ていない段階です。
私たちは他の多くの動物と、同類の脳システムを共有しているとはいえ、
人間の脳は、高度な「思考の言語」を駆使してそれらのシステムを結びつける能力を持つ点で、独自のものだと言えます。
ルネ・デカルトは、ホモ・サピエンスのみが「自分の思考を他人に伝える際、言葉や他の記号を組み立てながら用いる」と主張しました。
思考を組み立てる能力は、私たちの心的能力を爆発的に増大する重要な要因になったと考えられます。
ノーム・チョムスキーは、「言語はコミュニケーションシステムとしてより、むしろ表象装置として進化したのであり、その主要な利点は、新たなアイデアを他人と共有する能力以上に、そもそもそれを考え出す能力を付与することにある。」と言っています。
人間のグローバル・ニューロナル・ワークスペースは、「トムより背が高い」「赤いドアの左」「ジョンにはあげない」など、意識的に思考を形成する能力を持つ点で独自と言えるかもしれません。
これらの例のおのおのは、サイズ(高い)、人物(トム、ジョン)、空間(左)、色(赤)、物体(ドア)、論理(しない)、行為(あげる)など、まったく異なる能力領域に関わる、いくつかの基本概念を組み合わせたものです。
各要素は、最初は異なる脳の神経回路によってコード化されるが、人間の心は、動物も疑いなく行なっているように単にそれらを結びつけるだけでなく、たとえば「私の妻の兄」と「私の兄の妻」を、あるいは「犬が男を噛んだ」と「男が犬を噛んだ」を注意深く区別する高次の統語法を駆使することで、意のままに文を組み立てます。
言語によって思考を構成するこの才能は、複雑な道具の製作から高等数学の発明に至るまで、人間独自のさまざまな能力の基盤となっています。
また、意識は、自己意識という高度な能力の起源でしょう。
人間は、心に対する非常に洗練された感覚を持っています。心理学者はこれを「心の理論」と呼びますが、それは他者の思考を推論し、表象することを可能にする一連の直観的なルールとして機能しています。
事実、いかなる言語にも、心の状 状態を表現する手のこんだ語彙体系が存在します。
英語で使用頻度がもっとも高い10の動詞のうち、六つは知識、感情、目標に関するものです。
見つける 〈find〉
語る〈tell〉
尋ねる〈ask〉
思われる〈seem〉
感じる〈feel〉
試みる 〈try〉
私たちはこれらの語彙を、同格の代名詞を用いて自己にも他者にも適用します。
(英語の使用頻度では、「私〈I〉」は10位、「あなた 〈you〉」は18位)。
自分が知っていることと、他者が知っていることをまったく同じフォーマットで表現できます。
「私はXだと考えるが、あなたはYだと考える」。
この心理主義的な視点は誕生時からすでに備わっており、生後七か月の乳児でさえ、自分の知っていることから他人の知っていることを一般化する能力を持っています。
言語のシンタックス(統語論)がなければ、
「彼は、私が、彼がうそをついていることを知らないと思っている(He thinks that I do not know that he lies)」
などの入れ子状の思考ができるとは思えません。
このような思考は、人間以外の霊長類が持つ能力をはるかに超えています。
霊長類のメタ認知は、再帰的な言語によって実現される概念の無限の可能性を持たず、たった二つのステップ(思考とそれに対するある程度の信念)に限られています。
霊長類の系統のなかで、おそらくは人類のニューロナル・ワークスペースシステムのみみが、思考や信念を心のなかで組み立てて操作する独自の適応力を持つのでしょう。
前頭前皮質は、意識のワークスペースの中枢です。
霊長類の前頭前皮質は、脳のかなりの部分を占めていますが、人類ではさらに大きくなっています。
霊長類のなかでも、人類の前頭前野のニューロンは最大の樹状突起を持っています。
この大きな樹状突起によって、他の脳領域から情報を集めて統合する能力がより高くなっていると考えられます。
前頭葉の前部、正中線に沿う領域は、社会や自己について思考するときにはつねに活性化します。
前頭葉前頭極の皮質(ブロードマンエリア)は、類人猿よりも、ホモ・サピエンスのもののほうが大きくなっています。
また、脳の長距離神経結合の基盤となる白質は、全体的な脳の大きさの比率で見ても、霊長類より人間のもののほうがはるかに大きくなっています。
もう一つの特別な領域として、前頭葉の左下側領域に位置し、言語処理に重要な役割を果たすブローカ野があげられます。
長距離投射を送り出すブローカ野の第三層ニューロンは、類人猿に比べてヒトではより広範に配置され、強力な相互神経結合を可能にしています。
コンスタンティン・フォン・エコノモは、この領域と、自己コントロールに重要な役割を果たすもう一つの領域、正中線に沿った前帯状回に、巨大なニューロンを発見しました。
このニューロンは、ヒトや、チンパンジー、ボノボなどの大型類人猿の脳に特有のものらしく、マカクザルなどの他の霊長類には見られないようです。おそらくこれらの細胞は、巨大な細胞体と長い軸索によって、人間の脳内での意識的なメッセージの一斉伝達に際し、非常に重要な役割を果たしていると考えられます。
ヒトに進化する段階を通して、ヒトの前頭前皮質のネットワークは、脳の大きさのみからは予測できないほど次第に濃密になって行きました。
私たちの持つワークスペースの神経回路は不釣り合いなほど拡大したが、この増大はたぶん氷山の一角にすぎない。
人類は、単に大きな脳を備えた霊長類の一種なのではない。
「将来認知科学者によって、ヒトの脳には、言語に類似する再帰的な処理を新たなレベルで可能にする独自のミクロ回路を持つことが発見されたとしても、私は驚かないだろう。」とスタニスラス・ドゥアンヌは述べています。
他の霊長類も、内面生活と、意識によって外界をとらえる能力を備えているのは確かであろうが、私たちの内的世界は、おそらく入れ子状の思考を可能にする独自の能力のゆえに、はるかに豊かなのです。
すべての霊長類において、意識は当初、コミュニケーション装置として進化しました。前頭前皮質と、それに関連する長距離神経回路が局所的な回路のモジュール性を破り、脳全体にわたって情報を一斉に伝達するようになったのです。
しかし人類においてのみ、このコミュニケーション装置は、高度な信念の形成と、他者との共有を可能にする「思考の言語」が出現したということができます。
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