産業機械を長年制作していますが、班長の尾田(仮称)には、
「回転軸の芯出し作業」はなかなか難しく、正直なところこの作業に無駄があるとも、カイゼンできるとも思ってもみませんでした。
芯出し作業はこの機械にとって最も重要な作業で、品質の重要ポイントにもなっています。
もし、ワンタッチで芯出しができれば、全体の効率はアップしますので、画期的な改善テーマであることは理解しています。
数年前の高負荷時には、「いかにしたら納期を守る事ができるか」ということがもっぱら頭の中を占めていて、効率化は重要だと思う一方で、目の前の課題を解決することが第一優先でした。
あの頃はただでさえ忙しいのに、毎日のように欠品が発生するは、加工不良が出るはで、文字通り仕事に追われていました。
その後負荷の状況が落ち着いてきて、ほぼ標準時間を守ることができるところまで安定することができるようになりました。
今後は、現状レベルの標準時間をさらに書き替えていく活動が期待されているという状況なのです。
尾田班長はこれらのことを頭に浮かべることに加えて、ライバル機械の最近の躍進についても考えてみました。
彼らがライバルと考えている機械は、4人で20数日をかけて組み立てるリードタイムの長い、産業機械なのです。
しかし、現場の職制が「このままではダメだ。自分たちの力で打開していこう。」という指揮が上がり、長年の課題に挑戦して、標準作業の世界を作り上げてしまったのです。
尾田班長は、この話を聞いた時に「ウチの方がリードタイムが短いから、やってできない事はない」と思ったことを忘れません。
数年前にも芯出し作業を改善しようと取り組んではみたのですが、上手くいかなかったので、そのままになっています。
「ライバル機械のやった方法を取り入れて、自分たちもカイゼンに取り組もう」という気持ちになることができました。
尾田班長の取った行動の良かったところは、「芯出し」だけにこだわらなかったところです。
当面のテーマを「芯出し」とするが、標準作業の世界を作り上げることをゴールとしたことです。
改善活動がスタートしました。
この製品の芯出し作業には、435分/台かかっています。
それを出来るだけ細かく、何をやっているのかがわかるように関係者で見える化をしてみました。
すると、「あれ?、なんで?」と目敏い作業者が何かに気がついたのです。
組立QC工程表にケース端面でのシャフトセット位置が記載されています。
「ケースでの芯出し測定を実施していますが、問題なければパッキンボックス挿入後にも再度芯出し測定をしています。」
「でも、実際はケースでの芯出し後、再加工へと出戻りしたことがないんですよ。」
「という事は、今まであまり意味のないことをやっていたということになりますね。」
「組立QC工程表を『パッキンボックス挿入後のシャフトセット位置』へ書き直しましょう。」
パッキンボックス挿入前の28工程と、挿入後の46工程で、芯出し作業を2回実施していることがわかりました。
今までは、芯出し作業にムダは見つからないと思っていました。
しかし、全員で一緒になって考えたことで、あっさりと見えてきました。
1年以上も前から私は、「次は芯出しをテーマにカイゼンしよう」と何度も言ってきました。
でも、尾田班長の耳には入っていても、意識に上がる事はありませんでした。
認知科学コーチングでは、こう説明できます。
ゴールを明確にしたことで、これまで見えていなかったものが、あっさり見えてきたのです。
ゴールが今までの延長線上ではなく、さらに上の標準作業の世界に大きく上がりました。
標準作業の世界を目指しているのですから、芯出し作業の重複などがあってはなりません。
ゴールが上に開いたので、それまで物を見ていた習慣が大きく変化して、見えなかったものが見えてきたのです。
自分のゴールの意識が変わったことで、コンフォートゾーンが今までのレベルから、新たなゴールを取り巻く領域に移動しました。
そこで、あなたのRASが開いて、新たなゴールを達成すべき情報を見つけ出したというわけです。
結果的に、あなたのスコトーマが破れて、重要な問題が見えてきたのです。
具体的には、今回のプロセスを細かくみて分析するという行為に繋がりました。
また、班長一人でやるのではなく、関係者全員を巻き込んで進めることも提案してきました。
班長一人でやるのではなくたくさんの目を集めることで、漏れが少なくなりますし、全員で改善手法をマスターできれば、職場の改善力が高まってきます。
改善力とは、カイゼンのテーマを見つけてそれを解決していく力のことです。
職場の全員がこの力を持っているのと、そうでないのでは大きく違ってきます。
この職場は、ここまで来ました。
まだまだ、班長のゴールが達成するところまで届いていません。
やる事はたくさんありますが、間違いなく強い職場になっていく事でしょう。
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