私のホームページのフォーラムには、
「製品開発のプロセスと主査制度(79件)」と「TPSに関する勉強会(23件)」
2つのカテゴリー、102件の記事が掲載してあります。
「製品開発のプロセスと主査制度」では、特に企画・構想段階をテーマに、プロジェクトマネジャーのチーフエンジニアのずば抜けたタレント性について、歴代のチーフエンジニアの紹介を含めて書いてきました。
「TPSに関する勉強会」では、TPSの基礎について書いてあります。
これらを一読することをお勧めします。必ずあなたのお役に立つ時がきます。
これらに加えて、私は設計プロセスを進める原動力である設計ノウハウの蓄積について、忘れてはいけないと考えています。
私のこれまでの社外のカイゼン支援の経験では、設計ノウハウをきちんと整理して蓄積している例を目にしたことはありません。
設計ノウハウの蓄積に関する、私の問題意識などについて
私は、会社に在籍していた頃から開発・設計の人たちと一緒にカイゼン活動を進めてきました。
最初は技術者から相手にもしてもらえませんでした。
しかし、一緒にカイゼン活動を継続しているうちに、彼らは「技術者だけではなく、客観的に眺める立場から指摘を受けることも価値があるかも?」と見直してくれるようになってきました。
例えば、DRでの会話を見える化した時でした。
技術者たちは、DRに専念していますから、そもそも基本教育が不足していたことなど考えたこともありません。
彼らは設計図面のミスや技術的な問題を未然に発見することや、さらに良い設計にするために改良点は無いかという視点で見ていますから、基本教育の不足があるなんていうことは、考えていません。
私は彼らの盲点に気づき、指摘しました。
彼らは初めから私の指摘を理解したわけではありませんが、会話を文字起こししたもので事実が明確になっていますので、認めざるを得なかったのです。
私はこれらの活動を通して、いろいろなことを勉強させてもらいました。
基本的なことですが、開発・設計のプロセスも、製造ラインと同じように流れがあります。
製造ラインでは、ワークが物理的な形として変化して完成していきます。
開発・設計のプロセスでは、ワークではなく情報が変化をしながら流れていき、設計図面や部品表という形となって、最終的には製造ラインに受け継がれていきます。
ここまで抽象度を高めて眺めてみると、ものづくりの会社はほとんど同じプロセスに見えてきます。
情報が製品に変化していくという点では全く同じ流れになっています。
現在では、私は異業種の開発・設計の皆さんと製品開発を中心に活動を進めています。
製品開発のポイントである原価企画を中心にカイゼン支援をさせていただいております。
製品開発の入り口の最も重要な部分をプロセスを見える化して、改善を加えながら原価を作り込む活動(=原価企画)が大きな効果を上げています。
皆さんと一緒に活動をしていると、いろいろな問題・課題にぶつかります。
初めて私が直面したのは、過去に問題のなかった図面をそのまま出図したにもかかわらず、
過去のミスが顕在化してしまって、問題になったという事例でした。
それを設計メンバーとなぜなぜ分析で深掘りしてわかったことは、過去にも問題は出ていたにもかかわらず、図面がメンテナンスされていなかったということでした。
これと類似している別の会社の事例でも、過去にも製造段階でミスは見つかったのですが、製造の担当者が部品を修正して、組み付けて出荷していました。
その事実をを設計にフィードバックしていなかったことがわかりました。
原因がわかってみると、「なんだこんなことだったのか」ということですが、たまたまではなくて、またまたのよくある現象なのです。
複数の会社で同じようなことが起こっています。
設計図面のメンテナンスができていないということは、リビジョン管理の仕組みが形骸化してしまっていることを示しています。
これは事実です。数年前の私の直面した事例なのですが、ますます多忙を極めている設計者がこれを確実に改善できていることは考えにくいものがあります。
この事例は少し次元が低い事例であると言わざるを得ませんが、同じようなことが多くの会社の設計の現場で起こっていることはかなり深刻です。
そもそも設計の仕事では、①新規図面、②流用図面、③リピート図面の3種類しかないわけです。
③リピート図面は、上記のような事例でない限り問題が出ることはありません。
そして、現実に①新規図面を作成する場合は、全体の1割程度ではないかと言われています。
だとすると、③を除き、②流用図が作図する図面全体の9割に及ぶわけです。
これは最近直面したことなのですが、流用図が設計者の仕事のほとんどであるのに対して、流用図を的確に選択することが、意外と高いハードルになっているようなのです。
流用図の選択は、大抵担当の設計者任せになっていることが多く、図面上で判断するだけでは正しい流用図を選択できないこともあるということがわかってきました。
但し流用図を選択するには、設計の目的やコンセプトをしっかりと見定める必要があります。
図面や部品表(BOM)では判断できない、見落としてはいけない大事な情報がないと判断ができないはずなのです。
正しく流用図を選択するには、その製品に求められている機能や役割が、明確に分かる状態にしなければなりません。
しかし、現実は流用元を、「類似しているから」という単純な感覚だけで選んでしまっていることが問題点です。
流用元の選択の根拠は明確にしておかねばなりません。
「技術系統図」という昔の技術者は使っていたものが、いつの間にか省略されているという話を聞いたこともあります。
製品を作り上げるために、その製品がどのような技術で構成されているのかがブレークダウンした形で見える化したものが技術系統図です。
これが整理されていて、系統図にぶら下がった一つ一つの技術が、技術者の頭データとしてしか存在していない状況で、どうやってその大事な技術を継承・発展させて行くことができるのでしょう。
私はこの系統図ごとに設計の目的やどうしてその技術を採用したのかなどの根拠を、明確に記録して蓄積しておくことが「設計ノウハウ書」につながると考えています。
設計のプロセスごとに必要なノウハウをざっと見ていくと、下記のようなステップでのノウハウが重要になってくると思います。
流用モデルの選択
必要な機能の実現設計
部品の構造設計
統一された視点で評価
交差・ばらつきの実績
さて、皆さんの職場にはこのようなノウハウが蓄積されているでしょうか?
5番目の、「交差・ばらつきの実績」について見て見ましょう。
量産試作や量産段階で、ばらつきを考慮した結果として、「こういう構成になった」ということが明確になります。
この経験は次に、
「こういう形状製品を作るとしたら、こういうふうなばらつきになるはずだ」という知見が、過去の実績上ある程度判断できるようになってる筈だと言うことができます。
しかし、このノウハウを放っておいて、このばらつきを全く考慮せずに、新しく部品を設計してしまうと、また新しい部品に対するばらつきを予測する必要が出てきます。
この予測が非常に危険なのです。
設計者が生産のノウハウや、加工のノウハウなどを全て知っているのであれば、できないことはありません。
現実には生産のことを全て知ってる設計者はほとんどいません。新たに予測することは根拠が怪しいものですから、予測の精度もあまり当てになりません。
ですから、過去の実績を根拠にして、「この部分はこれくらいばらつく筈だ」と言う予測を立てる必要があります。
このような時に重要な考え方というのが、「横並び」という考え方です。
過去の製品の類似形状の公差や、ばらつきの情報を横に並べてみて、何か特別に飛び出しているデータがないかどうかを探してみます。
もし、今回も似たような形状あれば、本来だったらこの横並びの範囲内に交差やばらつきは収まるはずなのです。
にもかかわらず、それが特別に飛び出している場合、考え方や計算などが間違っているんじゃないかというふうに気づくことができます。
そういう意味で過去の公差やばらつきの実績は、横に並べて見るようなことができる状態にしておくと頼りになるのです。
特別な飛び出たデータを敢えて作らなければいけなくなったという場合でも、理由がはっきりしていれば良いのではないでしょうか。
これも非常に重要なノウハウです。これを記録せず、蓄積せずに新たに予測してみて、間違えて大きな問題になってしなうなどと言うことも珍しくありません。
多くの会社では、これらのノウハウは、通常経験者の頭の中(頭データ)として、個人にしか活用できない形で存在しています。
私は、これまで製品開発をメインに据えて改善支援を進めてまいりました。
改善メンバーの頭の中には、ある程度製品開発のプロセスの重要性という概念が住み着き始めています。
もちろん、製品開発プロセスの改善はこれからも進めてまいりますが、経験者の頭データを出来るだけ見える化して、次期の製品開発に活かしていく仕組みを提案していきたいと考え始めています。
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