今振り返ると私の現役時代の最後には、色々な出来事がありました。
左の書籍は、今月出版されたばかりですが、早速拝読させていただきました。
昨日kindle版をダウンロードして、夢中になって読みました。
普通、歴史は勝者の記録だけですが、ここには勝ちも負けもありません。
目の前に迫る課題を解決した後に、未来に目を向けて、自分個人の抽象度ではなく、関連メーカーさんの家族を含め、もっとそれ以上に大きな抽象度で生きている人物の物語です。
トヨタグループでは、毎年オールトヨタTQM大会を継続して開催しています。(残念ながら個人的には、ここ数年のことはどうなっているかを把握していませんが、、)
2000年代後半頃の出来事です。
私はその頃、トヨタ自動車の子会社で、トヨタ自動車東日本という会社に居りました。
トヨタグループで開催するTQM大会の事務局として働いていました。
その年には、各社のトップが代理を立てずに出席するという情報が入っていました。
なぜなら章一郎名誉会長が、大会でのご講演に続いて、懇親会にも出席されるという情報が事前に流れていたからです。
錚々たる方々が集まっていました。
TPSの元祖、大野さんから直接ご指導を受けられた方々が、主要なグループ会社のトップになっています。
私には、全体の事務局の仕事もありましたが、自社のトップが予定通り参加してもらうことを見届けることも重要ですので、私は、会場の入り口で自社の社長が到着するのを待ち構えていました。
自社の社長は、トヨタ在籍時代に、4部署で章男さんの上司になっています。
章男さんが、販売店のカイゼンに詳しいのも、その方の影響が大きいと思います。
短時間で車検を終えるというサービスは、章男さんのその頃の代表的なカイゼンの成果です。
車検の作業を秒単位で、見える化して、お客様を待たせない時ように、無駄をなくして、短期間に作業を終えるという素晴らしいカイゼンでした。
今回ご紹介した書籍にも、章男さんが岡山の豆腐店などでの事例により、TPSを完璧に会得していらっしゃったことが書かれていますが、このようなエピソードは、他にもたくさん残されていらっしゃるのではないかと思います。
私が会場の入り口で待ち構えていますと、社長が入ってこられたのが遠目に確認できました。
私は、こちらに社長が近づいて来られるまでに、30秒くらいの間があると思っていましたので、周囲を見回して、仲間にちょっと失礼すると断り、もう一度社長の来られる方を見ました。
「今見た社長の姿は幻影だったのか?」と自分の目を疑いました。
社長の姿が見えなくなってしまったのです。
「見間違えるはずはない。」と思い、さっき社長を見つけた場所まで歩いていきました。
そして、その場所で右側を見ると、社長が見知らぬ方の後を歩いていかれるのが目に入りました。
そして、その歩いていく先を見ると、ベンチに座っている章男社長の姿を見ることができました。
その時には、数分間のやりとりがあって、私は無事に自社の社長を会場までエスコートして、ことなきを得ました。
この数日後に、自社の社長と社内のカイゼン活動の報告会への移動中に、社長から先日のことに関連するお話を聞く機会がありました。
その時に、「金をかけなくても30%は生産性が上がるはずだと、(章男に)言っておいた。」
とおっしゃた言葉を今でも覚えています。
私の推測ですが、章男社長は、あのTQM大会に集合した、主要なグループ会社に散っていた先輩の方々の意見を伺っていらっしゃったのではないかと思います。
「トヨタ『家元組織』革命」拝読して、私は改めて、あの頃の大きな流れを認識させられました。
「トヨタがとった国際化とは、海外の既存工場の拡大と新工場の建設である。奥田社長時代の 4年間に建設が決定あるいは稼働を始めたのは、イギリス、フランス、インド、中国の天津、アメリカのウエストバージニア州、インディアナ州、ブラジル、カナダ、である。特に北米地域ではケンタッキー州の工場で年産 40万台レベルから 50万台レベルへ、カナダ工場では年産 10万台レベルから 20万台レベルへと生産能力を拡張。 1998年にインディアナ工場とウエストバージニア工場が立ち上げられた。経済低迷が続くアジア地域でも、タイ、インドネシア、フィリピン、台湾の各国・地域で第 2工場を立ち上げた。」—『トヨタ「家元組織」革命――世界が学ぶ永続企業の「思想・技・所作」』阿部 修平
この1節を呼んだ時、私の頭の中には、「金をかけなくても30%は生産性が上がるはずだと、(章男に)言っておいた。」という社長の言葉が、瞬時に浮かび上がりました。
リーマンショック、北米での大規模なリコール問題、アメリカ議会での公聴会、東日本大震災と章男社長の就任とほぼ同じタイミングで、色々なことが起こりました。
私は、北米での大規模なリコール問題、アメリカ議会での公聴会という流れは、言わば、自分で蒔いた種であったと考えています。
2000年を前にして、章一郎名誉会長は、「最近マネジメントが落っこっとるね。」と言われたそうです。
上記に引用しました内容の時期と重なりますが、海外の事業体へ国内の優秀なマネジャーを派遣する必要がありました。
張名誉会長もあの頃を振り返って、「兵站が伸びきっていた」とおっしゃっています。
これらの逆境にもめげずに、トヨタは章男社長の強いリーダーシップにより、大きな体質改善をなし遂げたのです。
「章男の社長就任前の 8年間と、その後の 8年間での原価低減の年間平均値をとるならば、章男の就任以前は 1, 625億円、以後は 3, 375億円と、倍の水準となっている。各年で見ると部品の原材料市況の影響等で大きく変動するが、章男が社長に就任して以降、いかに原価低減に力を入れ、企業としての足腰を強化してきたかがわかるだろう。なお、第三部第四章で詳しく述べるが、その間、部品サプライヤーの利益率も保たれている。すなわち、トヨタが生産、調達、販売のすべてのプロセスにおいて、サプライチェーン全体でカイゼンを行ってきたことこそが、原価低減効果として表れているのだ。」—『トヨタ「家元組織」革命――世界が学ぶ永続企業の「思想・技・所作」』阿部 修平著
製品開発段階の原価企画による利益の作り込みの上に、単年度のカイゼン努力による原価低減だけでこれだけ絞り出す力というのは、ものすごいパワーだというべきです。
章男さんは自ら岡山の豆腐店に入り込み、カイゼンを実践されています。
このことは、書籍の中で、紹介されています。
また、私の知る限り、販売店に入り込んだ時には、車検の時間を画期的に短縮しています。
私もある販売店に支援に伺ったことがありますが、改善に対するスタンスが全く違いますので、手強い相手だったと記憶しています。
それまで拡大による利益重視で走ってきた人たちの中に眠っていた、カイゼンの底力が、カイゼンを熟知している物凄いトップに引っ張られたことによって、一挙に目を覚ましましたのです。
製造の体質が一挙に引き締まりました。
章男社長の成し遂げられたことは、これだけではありません。
章男社長は「もっといいクルマをつくろうよ!」という抽象度の高い言葉を関係者に投げかけて、大きな改革を巻き起こしました。
(続く)
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