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執筆者の写真Hatsuo Yamada

「トヨタ『家元組織』革命」下 もう一度お客さまの視点に、原点回帰。


昨日のブログ「トヨタ『家元組織』革命」①では、TPSのカイゼン力を身につけた、素晴らしいリーダーが、量を追い求めて伸び切った兵站線を、本来のカイゼンの力を目覚めさせることによって、体質改善をおこなった話をお送りしました。


今回は、開発の力をさらに引き出すために、何を行ったかを見ていきたいと思います。


私は、常にトヨタの力の源泉として、TPSとTPD(製品開発)の両輪の重要性を主張しています。


前回は言わば、企業トップがTPSの力を使って、体質を健全化させたお話でした。


今回は、開発力を強化させたお話になります。




章男社長は「もっといいクルマをつくろうよ!」という抽象度の高い言葉を関係者に投げかけて、大きな改革を巻き起こしました。


トヨタではトップのビジョンを受けて、物凄い速さで自らがやるべきことを見つけて、一気に全員が一つの方向に向かって、走り出すパワーを持った会社です。


そのビジョンは、迅速に会計者に伝達されて、具体的にやるべきことが議論され、課題解決の活動が始まります。そうは言っても、「もっといいクルマをつくろうよ!」という抽象度の高い言葉は、なかなか理解するには難しい課題です。


しかし、関係者はこれを理解すると、それぞれの分野で、一気呵成に走り出します。


ずっと以前からですが、トヨタは「カスタマー・ファースト」の会社であることを、宣言していましたが、量を追い求めたことで、作ることが目的化していたようです。



現在では、「もっといいクルマをつくろうよ!」が形となって実現しています。


しかし、当時の私にはこの「もっといいクルマをつくろうよ!」という言葉の本当の意味を理解することはできませんでした。



「章男はその 7年ほど前から、トヨタの伝説のマスターテストドライバーである成瀬について運転を習っていた。成瀬は章男に対しても容赦はなかった。「車の運転もろくにできないようなやつがごちゃごちゃ言うな」と章男に言い放ち、運転の技を極めた職人の世界がそこにはあった。章男は持ち前の負けず嫌いと運動神経を発揮して、訓練を重ね、成瀬に認められるべく運転の技を磨いていった。そして 2007年、その技をもって成瀬とともにニュルブルクリンク 24時間レースに自ら参戦したのだ。  生きるか死ぬかの過酷なレースで、章男は成瀬の車の後ろにぴったりとついてついに完走する。ゴール直前で成瀬は、「お前が前に行け」というサインを出したが、章男は成瀬よりも先には涙で前が見えなくて行けなかったという。まさに感動的なゴールインだった。  その 3年後、成瀬はニュルブルクリンク近郊での走行中、事故で亡くなった。章男が社長に就任して初めての株主総会の前日のことである。」—『トヨタ「家元組織」革命――世界が学ぶ永続企業の「思想・技・所作」』阿部 修平著


私は、ニュルンブルグ24時間レースの話は、この書籍だけでなく、以前から聞いていました。

伝説のマスターテストドライバーの成瀬さんから、7年もの間、厳しい訓練を受けて、このレースを完走したのです。


そして、自らが、マスターテストドライバーとなっていらっしゃいます。


トヨタの製品開発は、お客さまに受け入れられる製品を開発し続ける力は、レベルの高い力を持っています。

それは、初代カローラの長谷川龍雄主査から始まる長い歴史があります。


しかし、製品開発を進める中で、量的拡大に走るようになってしまった結果、最も重要な視点が変化してしっまったようです。



佐藤らチーフ・エンジニアたちがショックを受けたのは、章男が社長に就任した後、GS (ミッドサイズセダン)の開発を章男の判断で中止させたことだった。佐藤が言う。「ミッドサイズセダンというのは過去に3つのモデル(LS、GS、IS)で成功していました。当初は開発中止の判断を現場では理解できませんでしたが、後になって先見性のある判断だと気づかされます。のちに市場が縮小していったのです」

(中略)

「売れるかどうかはお客様が決めることだから、そこは謙虚にデータを見て、 お客様の声に耳を傾けるべき。『Youの視点』で市場の縮小が見えるのなら中止なのです。 『お客様が決めることだ』という軸はまったくブレない」開発陣は、事業性を突き詰めたうえで、このモデルは開発させてくれと章男に直談判した。それに対して、章男は「走りで納得させてほしい。それがプロジェクト存続可否のカギだぞ」と告げた。開発メンバーは必死の思いで取り組み、走りの性能を突き詰めた結果、最終的には開発の許可が下りた。そうやって生み出された新型GSのお披露目の場で、章男や佐藤は「トヨタ(レクサス)は退屈だ」という厳しい一言を聞かされるのだ。」—『トヨタ「家元組織」革命――世界が学ぶ永続企業の「思想・技・所作」』阿部 修平著



トヨタ本来のチーフエンジニアの姿を取り戻してほしいということです。

チーフエンジニアは本来、お客さまを誰よりもよく知っている。

お客さまの変化をよく見ているはず。

そんなチーフエンジニアを育ててほしい



佐藤チーフエンジニアは、「技術屋には技術屋のプライドがあるので、それ以前は経営の観点だけで決められるのがみんな不満でした。しかし、LFA(レクサスフラッグシップ、3000万円レベルのスーパースポーツカー。今でも高い評価を得ている)レベルの車の開発を指揮されていたこと、ニュルブルクリンクを走るなど社長が命がけで開発に携わっていたことにより、技術者たちは社長をリスペクトするようになりました。それで、当時多くの人も動くようになったのです」。


章男社長は、TPSにも製品開発(TPD)にも、原点回帰を促しました。

両方とも、率先垂範という正攻法で臨みました。

これは、並大抵の人間にできるものではありません。



章男社長はLFAというクルマの開発に自ら現場に降りて取り組んでいたのです。自らが陣頭指揮をして、LFAの開発をリードしていました。


この辺りは、祖父の喜一郎さんの姿と重なります。


TNGAにより、プラットフォームが整備されたことで、チーフエンジニアの本来の姿を取り戻すことにも成功しました。

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